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高松高等裁判所 昭和40年(ネ)114号 判決 1968年2月22日

控訴人 国分寺 代表者代表役員 佐藤郷鑑

訴訟代理人 島内保夫

被控訴人 美馬弥蔵 外四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中被控訴人らの第一次請求の訴を却下した部分を除く部分を取消す。被控訴人らの第二次請求の訴を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。」との判決を求め、仮に被控訴人らの第二次請求につき訴の利益ありとするときは「被控訴人らの第二次請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は次に附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるからその記載をここに引用する。

控訴寺の主張

控訴寺と被控訴人ら檀徒との関係は、単なる宗教上の事実関係であつて、確認訴訟の対象となるべき権利又は法律関係ではない。従つて被控訴人らが控訴寺の檀徒たる地位を有することの確認を求める請求は訴の利益を欠く不適法なものであるから右訴却下の判決を求める。

被控訴人らの主張

控訴寺の属する曹洞宗宗憲第三三条には「本宗の宗旨を信奉し、寺院に所属し当該寺院住職の教化に依遵するほか本宗及びその寺院の護持の任に当るもので、その寺院の檀徒名簿に登録された者を檀徒という」、同第三五条に「寺院に檀徒及び信徒の総代を置く」、第三六条に「寺院に檀信徒護寺会を置き、当該寺院の護持に当らせると檀徒の地位が規定せられ、宗教法人曹洞宗規則第五〇条に「両大本山を護持し、宗門財政の確立を期し、一宗の興隆に関する檀信徒の意見を求めるため檀信徒中央集会を設ける」、第五一条に「檀信徒中央集会は檀信徒地方集会において選出した代表者で組織する」、第五四条に「内局は檀信徒中央集会に対し、左に掲げる事項を報告しなければならない。一、当該年度の予算に関する事項、二、前年度の決算に関する事項、三、一般の宗務の状況に関する事項、四、その他内局において必要と認める事項」、第六一条に「一般寺院の代表役員 以外の責任役員は当該寺院の関与者のうちから当該寺院の規則で定めるところによつて選定し管長が委嘱する。但しその責任役員のうち少くとも一人は当該寺院の檀徒又は信徒の総代たる関与者のうちから選任しなければならない。」第六二条に「関与者は、一般寺院において左に掲げる者のうちから五人以上を選定しなければならない。一、本寺住職。二、末寺が三以上ある寺院にあつては末寺代表。三、法類代表。四、寺族代表。五、法友代表。六、檀徒又は信徒の総代。関与者は当該寺院の後任住職の選定その他重要事項の協議に参与する。」旨それぞれ規定され、更に曹洞宗寺院規程第一七条に「寺院の責任役員には、当該寺院の関与者の教師及び檀徒総代又は信徒総代のうちから各々一人以上が選定されなければならない。」第二一条に「住職は檀徒又は信徒のうちから総代三人以上を選定して関与者とするものとする。」第二二条に「住職は檀信徒名簿及び信徒名簿各々三通を作り、一通は当該寺院で保管し、他の二通は、当該宗務所及び宗務庁に提出しなければならない」、第二五条に「左の各号の一に該当する者は宗務庁の承認を得て離檀又は離藉することができる。一、宗旨に異議を唱え他の信仰を妨げた者。二、住職の正当な職務進退等を妨害した者。三、寺院の財政に対し不正の行為があつた者。」と規定し、檀徒の地位得喪につき規定している。以上のような諸規定からすると檀徒たる地位は確認訴訟の対象たりうる法律上の地位と言わなければならない。従つて被控訴人らの請求は訴の利益があるものである。

証拠

被控訴代理人は甲第五号証の一、二を提出し、当審証人北田宇吉の証言及び当審における被控訴本人盛次郎の供述を援用し、乙第九号証の一、同第一〇号証の一、同第一一号証、同第一二号証の一、同第一三号証の一、同第一八号証、以上各証のうち、郵便官署作成部分はいずれもその成立を認めるがその余の部分並びにその他の後顕乙号各証の成立はいずれも不知と述べた。

控訴代理人は、乙第九、第一〇号証の各一、二、同第一一号証、同第一二号証の一ないし四、同第一三号証の一、二、同第一四号証の一ないし三、同第一五ないし第一八号証を提出し、当審証人宮崎文輝、同矢本利治、同山川紹真、同豊内義光、同杉生彦竜の各証言並びに当審における控訴寺代表者佐藤郷鑑の供述を援用し、甲第五号証の一のうち郵便官署作成部分は成立を認めるがその余の部分並びに甲第五号証の二の成立はいずれも不知と述べた。

理由

当裁判所も、被控訴人らの第二次請求はこれを認容すべきものとするところ、その事実認定、法律上の判断は次に附加するもののほか原判決理由第二と同一に帰するから、その記載をここに引用する。

(一)  先ず被控訴人らが控訴寺の檀徒としての地位を有することについてその確認を求める訴の利益があるかどうかにつき判断を附加する。

被控訴人らが控訴寺の檀徒であつたことは当事者間に争いがない。そこで右檀徒たるの地位がいかなるものであるかを検討するに、成立に争いのない乙第六(曹洞宗宗制)、第七号(宗教法人「国分寺」規則)証によると、曹洞宗寺院における檀徒とは、曹洞宗の宗旨を信奉し、寺院に所属し、当該寺院住職の教化に依遵するほか、曹洞宗及びその寺院の護持の任に当るもので、その寺院の檀徒名簿に登録されたものをいうところ(曹洞宗宗憲第三三条)、その地位は檀徒となろうとする者の入檀の意思表示とこれに対する寺院の承諾を意味する檀徒名簿への登録により取得され、檀徒たることを止めようとする者の離檀の意思表示とこれを承認する寺院の右名簿からの削除によつて、或は一定の事由(宗旨に異議を唱え他の信仰を妨げ或は住職の正当な職務進退を妨害しまたは寺院の財産に対して不正の行為があつた場合)があることを要件としてなされる寺院側の一方的な離檀の意思表示によつて喪失するものであること(曹洞宗寺院規程第二四条ないし第二六条)、そして檀徒たる地位にあるときは、所属寺院・大本山・曹洞宗の護持興隆を図る護寺会の組織員たる地位を持ち(曹洞宗宗憲第三六条、宗教法人国分寺規則第二〇条第二一条)、或は寺院が開催する檀信徒総会に出席して、曹洞宗大本山及び各寺院の護持、宗門の布教、教育及び福祉事業の伸張並びに財政の確立に関し曹洞宗教区の諮問に応じかつ建議するために毎年定期に開かれる檀信徒教区集会に出席する代表者を推薦することができる(曹洞宗檀信徒集会規程第一、第二、第四、第六、第七条)など、自己の所属する寺院宗門の護持興隆に関与する権限を有するとともに、檀徒総代に選任されるときは、所属寺院の関与者たる地位に就くこととなるが、控訴寺の場合においても関与者は控訴寺の住職及びその代務者の選任その他重要事項の協議に参与する権限をもつに至ること(曹洞宗寺院規程第二一条、宗教法人国分寺規則第一六ないし第一九条)、更には寺院の責任役員のうち一人は当該寺院の檀徒又は信徒の総代たる関与者のうちから選任しなければならないこと(宗教法人曹洞宗規則第六一条、宗教法人国分寺規則第七条第二項)、そして一方では寺院に課せられる宗費につき一定の割合で檀徒負担金が課せられることがあること(曹洞宗財務規程第二四条ないし第二九条)が認められ、以上の認定に反する証拠はない。そうすると控訴寺における檀徒は控訴寺と密接な利害関係をもつ構成分子ということがでぎる(なお最高裁判所昭和三五年六月二日判決参照)。ところで宗教法人法によると、宗教法人がその財産等の処分、規則変更、合併、解散等の場合に、一定事項を「信者その他の利害関係人」に公告すべきことを規定し、一定の財産処分については右公告を欠くときはその処分行為を無効とし、或は規則変更、合併、解散等につき所轄庁の認証を受けるに際しては右公告をしたことを証する書類を提出すべきこと、所轄庁は宗教法人が右公告手続をしたかどうかを審査の上で決定すべきことを規定し、更には解散の場合には「信者その他の利害関係人」に意見を求め意見が述べられたときは、その意見を考慮して解散の手続を進めるかどうかを再検討すべきこと等を規定している(以上宗教法人法第二三条、第二四条、第二六条、第二七条、第二八条、第三四条、第三五条、第三六条、第三七条、第三八条、第三九条、第四四条、第四五条、第四六条参照)。そうすると宗教法人法は当該法人の「信者その他の利害関係人」に特別の法律上の地位を認めていること明白で、かかる宗教法人法の法意に前記認定の事実を総合して考えると、控訴寺における檀徒が宗教法人法にいわゆる「信者その他の利害関係人」に該当すること明白で単なる宗教上の事実関係に止らず法律上の地位というべきである。従つてこの地位につき争いがある以上訴によりその確認を求める利益があるといわなければならない。

(二)  次に控訴寺住職佐藤誠山が被控訴人らに対してなした離檀処分の意思表示の効力につき判断を附加する。

乙第一七号証には「昭和三七年四月頃被控訴人らが杉生彦竜に対し控訴寺の住職佐藤誠山を寺より追い出すから後任住職になつて下さいと依頼した」旨の記載があるが、右記載は当審証人杉生彦竜の証言によると控訴寺代表者佐藤郷鑑が作成した原稿に基づき同人に言われるままに右証人杉生彦竜が記載したもので、その内容は事実と相違するものであることが認められ、また被控訴人らが控訴寺住職佐藤誠山の正当な職務進退を妨害したとの控訴寺の主張に副う控訴寺代表者の供述も、当審証人北田宇吉の証言並びに原審及び当審における被控訴本人盛次郎の供述に対比するとにわかに信用できず、その他当審における証拠調の結果によるも被控訴人らが「宗旨に異議を唱え、他の信仰を妨げ」或は「住職の正当な職務進退等を妨害した」ことを肯認するに足りない。

もつとも郵便官署作成部分の成立につき争いがなく、その余の部分は当審証人宮崎文輝の証言から真正に成立したことが認められる乙第九号証の一、二、郵便官署作成部分につき争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨から真正に成立したことが認められる乙第一〇号証の一、二、当審証人宮崎文輝の証言、当審における控訴寺代表者佐藤郷鑑の供述の一部を総合すると、被控訴人らが昭和三七年三月二八日頃、控訴寺の本山管長宛に、控訴寺住職佐藤誠山は、(一)控訴寺の山林境内の大木を伐採して売却した、(二)控訴寺の諸堂を売つた、(三)県文化財の庭園の大木も第二室戸台風にかこつけて伐採して売つた、そのため控訴寺の庭園は荒れ町の文化財保護委員会から解職を迫られている等の事由を挙げて、同住職の解職を求めるとともに控訴寺から申請のあつた新責任役員を承認しないで欲しい旨の書面を提出したことを窺うことができるところ、右(一)ないし(三)の各事実のうち、(一)(二)の事実は、いずれも昭和三一年頃のことであり当時の控訴寺の責任役員の承認を得てなしたものであること当審証人北田宇吉の証言に徴し明白であり、また右(三)に挙げるところは、前記認定(原判決理由引用)のとおりであつて、いずれも事実を誇張したきらいがないではない。しかしながら、前顕乙第九号証の一、二、同第一〇号証の一、二、郵便官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分は当審証人山川紹真の証言から真正に成立したことが認められる乙第一一号証、同第一二号証の一ないし三、同第一三号証の一、二、原審及び当審における被控訴本人盛次郎の供述並びに弁論の全趣旨を綜合し、前記本山宛書面の内容提出時期を併せ考えると、控訴寺住職佐藤誠山が前記認定(原判決理由引用)のように、昭和三六年一一月五日被控訴人らに檀徒総代改選の通知をして、その頃総代を改選した(この点控訴寺代表者の供述は信用できない)ので、被控訴人美馬弥蔵、阿部国一、盛次郎らもまた檀徒総代としての任期が終了したものと考えていたが、前記本山管長宛書面を提出した前頃、自分達の檀徒総代としての任期が満了していないことを知るに至り、住職佐藤誠山に対し檀徒総代の立場で控訴寺の維持運営につき申入れをなしたもののその申入れが同住職に受け容れられず互に対立するに至つたため、本山に対し被控訴人らとしては住職佐藤誠山を信任できないことを表示するとともに昭和三六年一一月五日の改選による新役員を承認しないで欲しいとの趣旨でなしたものであることが窺え、一方前記説示(原判決理由引用)のように、檀信徒が住職の不信任を表示することは許されているところであるから、前認定のような本山管長宛書面を提出した事実があるからといつて、これをもつて曹洞宗寺院規程第二五条にいわゆる「住職の正当な職務進退等を妨害した」ものと断ずることはできない。

よつて、被控訴人らの第二次請求を認容した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条により、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、同法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本茂 裁判官 越智伝 裁判官 奥村正策)

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